スギモクのタイプ産地


 スギモク Coccophora langsdorfii は日本海沿岸を中心に分布している。この種のタイプはロシアのクルゼンシュタイン提督の率いる艦隊に乗船していた博物学者 G.H. von Langsdorff によって日本で採集されたことが分かっていた。この標本はブレーメンの Mertens を通じてイギリスの D. Turner に渡され,Fucus langsdorfii と命名され,のちに Greville によって Coccophora 属とされたものである。標本は現在ロンドンの自然史博物館に保管されている。Langsdorff の乗船していたナデシュダ号は1804年10月8日に長崎港に着き,1805年4月18日に長崎を出港して,日本海を通ってカムチャッカに向かったことが航海記録から分かっている。

 スギモクの現在の分布から考えて,長崎で採集された可能性はない。また,これまでスギモクを流れ藻として発見したことはないので,日本海を航海中に拾うことも不可能であろう。そうすると,ナデシュダ号の次の停泊地は稚内から宗谷岬であり,5月中旬に上陸しているので,この場所以外考えられない。

 標本は成熟した生殖器床を持っている。スギモクの成熟期は九州では2月ころであり,北海道北部では5月ころであるから,この点からも稚内から宗谷岬付近がタイプ産地であると結論される。「新日本海藻誌」にタイプ産地として稚内と記述したのは上記のような考察の結果である。
                                (吉田 忠生)

     

 

提供:自然史博物館所蔵の標本